噛み合わせの低いブリッジと歯並びで地獄の苦しみを味わった KSさん

噛み合わせの低いブリッジと歯並びで地獄の苦しみを味わった KSさん

KSさんは当時50歳の主婦でした。お子さんの治療で来院されていました。ご自分の歯のことでは時々相談を受けていたのですが、あまり深刻ではなさそうだったので、本格的な治療はおこなっていませんでした。 5年後の1989年の6月に、右下のブリッジの不調を訴えて来院されました。同時に右下の頬のところも痛むとのことでした。 耳鼻科にも相談したのですが、顎関節症かもしれないとのことでしたが、とくになにも治療はしませんでした。 5年後再び来院されたときには、かなり深刻な状態になっていました。当時所属していた研究会で発表させていただいたスライドをもとに経過をみていただきたいと思います。 KSさん このときのKSさんのお顔は元気がなく、左に傾いています。左右非対象で、右の頬が腫れています。右下のブリッジのレントゲン写真は、一見よく咬めているように見えます。


 ■口を開くとき、左下顎の角のところが痛い。
 ■右下の噛み合わせが低い(ブリッジのところ)。
 ■左側を強く噛んでも右側が浮いている気がする。」
 ■生理の前になると頭痛がある。生理がはじまると頭痛がなくなる。ほとんど毎月同じ。
 ■9月になってから偏頭痛がひどくなり、目の奥と頭の後ろとの間が痛くなった。


 ■症状は3年前が一番ひどかった
 ■夜まったく眠られず、胸につっかえるものがあり、吐こうとするが吐けないことが何日も続いた。
 ■古いシーツなどを破ったり裂いたりして気をまぎらわせていた。
 ■子供や主人にも迷惑をかけた。
 ■小学校6年の子供にあやしてもらっていたこともある。
 ■女子医大の脳外科で調べてもらったがなんでもないと言われた。もらった薬を飲むと痛みはなくなるが、
  朝起きたとき不快感がある。CTも撮ってもらった。

 ■最高に痛い時は吐き気がして、寝返りしただけでも痛む。
 ■2~3年前から集中力がなくなって、あくびばかりが出る。更年期障害ではないかと思っている。 
  次は、初診時の口腔内写真です。


 ■上下の前歯部に叢生がある。(不揃い)
 ■とくに上の前歯が内側に傾いている。
 ■全体的に歯の治療の痕跡が少ない。
 ■左下の大臼歯部に大きな冠(かぶせもの)。
 ■右下の臼歯部にブリッジがある。
 ■ご本人はこれらの修復物の不調を何年も訴えていた。


KSさん この当時使用していたMKG K-5 は1989年当時のものですが、現在はその後継機のK-7を使用しています。


1月17日(1994年) 初診
  ■問診・視診・写真撮影・印象採得(歯の型とり)
  ■触診;胸鎖乳突筋に圧痛あり
  ■顎関節にはとくに異常なし
  ■MKG(CMS)による咬合検査・咬合採得
  ■右下ブリッジに咬合接触がない


1月24日 オーソシス 装着
  ■CMSによる顎位の確認と調整
  ■最大開口量;32.5 mm(通常40mm以上が正常


2月5日
 ■オーソシス装着後、4日後に肩、頭が痛くなった。
 ■7日目からは、寝込むほど身体の調子がわるくなった。頭痛もひどかったし、肩も凝った。
 ■今は目が霞んでいる。頭痛はそれほどではないが、なんとなく根気がなく、生あくびがでる。
 ■外出したくないし、人とも会いたくない。
 ■うつ病ではないかと思うぐらい、外へ出ても面白くない。



CMS所見
KSさん
顎運動追跡記録装置(CMS;Computerized Mandibular Scan)で顎の運動と顎の位置関係を記録すると上の写真のようになります。 この図からは、下顎安静位と習慣性咬合位の差は、前後的に約2mm、左右的には0.8mm右にずれていることがわかります。上の前歯が内側に傾いていて下顎が前に出ることを妨げていることもわかります。そして右の安静位の模型では上下の臼歯部の間にスペースがあるのがわかります。


 ■下顎安静位が現在の咬合位より前方にある
 ■最大開口量が少ないこと。(32.5mm)
 ■開口時右へ偏移する
 ■前方滑走路の後方への傾斜のため、下顎が前方に移動できない
 ■安静時空隙は3.0mmなので、これ以上咬合高径を高くしない


上記の安静位の記録に基づいて上下の模型を咬合器にマウントしました。 その結果、下顎は前方に移動しているが上顎前歯の後方への傾斜のため十分に前方へ移動できていない。 さらに、右下のブリッジの部位は上顎臼歯と噛み合っていないことが判明しました。


 ■今回の不快症状の原因は、下顎の後方偏移であり、その原因の一つは上顎前歯の後方への傾斜である。
 ■治療方針としては、上顎前歯の内側への傾斜を是正して下顎を前方に移動できるようにして下顎安静位に近づけることを目的とする。
 ■しかし上顎前歯を前方に出すことは容易ではなく、時間が必要である。
 ■そのためとりあえず、臼歯部の上下顎のスペースを埋めて下顎が後退するのを防ぐためにオーソシスを作って装着する。
 ■その後症状の寛解を待ちながら、上顎前歯の矯正治療をおこなう。
KSさん


KSさん


 ■症状が落ち着いて経過が良いようなので、矯正治療を開始した。
 ■上下顎の叢生の改善と、上顎歯列弓の拡大を目的とする。
 ■矯正装置は、Tip-Edge Appliance を用いた。
 ■写真は開始後、3カ月の状態を示す。


 ■矯正治療は95年1月27日から96年の9月2日まで、約1年半ほどで終了しました。
 ■内側に傾いていた上の前歯を前に出し、さらに上の歯列弓を拡大することで、下の顎が前に出やすくなり、下顎が安静位に
  落ち着くことができるようになりました。
 ■問題の右下のブリッジも作り直して治療をほぼ終了しました。
KSさん
 ■治療は1994年1月17日から1996年11月29日まで約2年かかりました。
 ■その後、地方の都市に移られましたので、定期的に2005年まで来院されていましたが、
  再発の兆候はみられませんでした。


■とても同じ人とは思えないほどの変化です。

■顎のわずかな位置の異常がこれほどの変化をもたらすとは、にわかには信じられないことですが、これは事実です。

■全身の姿勢にも大きな変化がみられます。姿勢の変化とは骨格と骨格のあいだの位置関係の変化のことです。

■その変化はその間をつないでいる筋肉の不調という形で症状として表れます。

■この症例は噛み合わせ症候群の恐ろしさを如実に物語っています。

■ほとんどの医療機関では原因不明で、噛み合わせとの関係も否定されていますが、ニューロマスキュラー理論からすれば

その間の病理は明らかで、因果関係は十分に説明することができます。

■多くの医療機関が一刻もはやくこの理論に注目し、理解したうえで治療に取りいれてくれることを切望しています。

■そしてこのような単純な原因で苦しんでいる患者さんを一刻も早く、一人でも多く救い出してあげられたらと思います。

■この症例は今から15年前の症例ですが、この当時より診断機器は改良されて使いやすくなっています。

それにもかかわらず、この分野に参入する歯科医師はほとんど増えていません。

■発想を変えるだけで、このように患者さんのお役に立つことができて、やり甲斐のある分野が歯科医療に

残されていることを是非知ってほしいと思います。



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