4回もの矯正治療はなぜ必要だったか

4回もの矯正治療はなぜ必要だったか

OMさん
OMさんは初診時27歳の若いハンサムな弁護士さんでした。


最初の来院の目的はセカンドオピニオンがききたいということでした。
というのは、その時他院で歯の矯正治療を受けている最中でその治療も終わりかけているところでした。矯正治療は噛み合わせの違和感をなくすことが目的でしたが、その目的が完全に達成されない状態で治療が終わりかけていることに不安を感じていました。
OMさん

それ以前にも同じ目的で矯正治療を受けたのですが、そのときは全く目的を達成することが出来なかったそうです。

ここではICCMOの学会で症例報告をさせていただいたときのスライドをもとに、経過を紹介させていただきます。





 ■小学生のころ下の前歯が出ていたので矯正。1年半で中断。
 ■21歳のころからかみ合わせが気になり矯正治療を受けたが、かみ合わせは良くならなかった。
 ■24歳の時、一般の歯科医で2年ほどスプリント治療を受けたが良くならなかった。
 ■26歳の時、銀座矯正歯科で3度目の矯正治療をうけ2年目。顎の位置自体は良くなったが、
  かみ合わせ自体はまだ良くなっていない。現在保定期間中で9ヶ月目。
 ■セカンドオピニオンを聞きたい


これは初診時にすべての患者さんに記入していただいているもので、症状を自己申告していただいています。
OMさん

初診のカウンセリングはこの「健康調査票」を中心におこないます。
 
1)顎関節に関する症状

 ■顎の関節が痛む   両方
 ■口が開けにくい
 ■開口時に音がする


2)噛み合わせについて

 ■歯を食いしばることが多い
 ■どこで噛んでいいかわからない
 ■歯列矯正をしたことがある


気になる全身症状(1)

 ■肩がこる    (2)
 ■頭痛がある   (2)
 ■首筋が凝る   (3)
 ■顔面が痛む   (1)
 ■目が疲れる   (3)
 ■耳鳴りがする  (1)
 ■鼻がつまる   (1)
 ■寝起きがわるい (2)
 ■集中できない  (2)
 ■イライラする  (2)

()の中の数字は症状の強さを患者さんの感じ方で記入していただいています。
(1)気になる程度 (2)辛い
(3)かなり辛い


OMさん

 ■上下の歯列はほぼ理想的に配列されていて、質の高い矯正治療が行われたことがうかがわれます。
 ■このような状態からは、なぜ噛み合わせの違和感を感じるようになったかを判断することはできません。
 ■噛み合わせ症候群の診断は、上下の歯が噛み合っているところをいくら観察しても何もわかりません。
 ■顎を下顎安静位に導いた時にはじめて診断が可能になります。
 ■またCMSを使うことで、量的な問題もあきらかになります。


これはCMSの中でもScan 5 という検査の画面です。
画面の左半分は被験者を横から見た画像で、右半分は正面からのものです。下の図は上のデータの見方を解説するための図です。
OMさん

 ■上の図のCO(赤い)は現在の習慣性咬合位です。
 ■上の図のMC(緑の)は生理的下顎安静位を示しています。
 ■これはOMさんのデータですが、この2つの位置は一致していません。
 ■安静位(MC)はCOの2.8mm下方で、3.5mm前方にあります。


このデータにもとづいて、上下の模型をマウントすると、このずれは実際の歯の模型では下の写真のようになります。
OMさん

上の2つの模型が習慣性咬合位(現在の咬合位)で、下の2つの模型は生理的な安静状態における下顎の位置を示しています。

筋肉の力をぬいてあごをリラックスさせると、下の写真のような状態になります。これが下顎安静位です。この状態だと筋肉にも顎関節にも無理な力がかからずに、緊張もありません。
この状態を維持するためには、このギャップをうめるためにオーソシスという器具を装着します。
OMさん
上の列は習慣性咬合位、下の列はオーソシスを着用した写真です。

 ■オーソシスを装着することで、下顎を安静状態に維持することができます。
 ■この状態をしばらく維持することで、下顎の周辺の筋肉の緊張がとれて次第に楽になっていきます。



これがオーソシスです。
OMさん

 ■オーソシスは通常、透明な樹脂でつくります。
 ■基本的には上の図のような可徹式のものを用います。ご自分で着けたり外したりすることができます。
 ■食事以外はできるだけ長時間着用していただくと、症状が早くとれます。



下の図はオーソシスを試適した時のCMSのデータです。
OMさん
 
 ■このデータでは、オーソシスの咬合位はまだ完全に下顎安静位と一致せず、あごを安静に誘導できないことがわかります。
 ■そこで完全に下顎安静位に一致するように調整をします。
 ■この画面では1ミリの10分の1の精度で表示されていますので完全に一致させるのは容易ではありません。
 ■しかし、ここで妥協すると良い結果は得られません。


OMさん

 ■オーソシスの調整は慎重に行われなければなりません。
 ■オーソシスの表面に薄いワックスを張り付けて、強く当たっているところを根気よく削っていきます。
 ■あるいは新たに常温重合樹脂を上に乗せて、下顎安静位で硬化させます。(これをリサーフェースといいます)。
OMさん

 ■その結果、上の図のようにオーソシスの咬合位と安静位が一致するようになりました。
 ■このオーソシスを着用することで下顎は安静位に安定して誘導されることになり、顎関節と筋肉が安静を取り戻します。


OMさん

OMさん

オーソシスを固定式のものに変えました。

固定式のオーソシスに変更したあとの経過


OMさん
SCM(胸鎖乳突筋)
咀嚼筋ではありませんが、下顎の位置異常によってしばしば影響を受ける筋肉です。
この筋が緊張すると胸の前の鎖骨のあたりに圧痛を感じるようになります。または首を自由に回せなくなります。
OMさん

上のデータはいずれも、オーソシスの咬合位と顎の安静位とが一致しています。そのため基本的には症状は寛解にむかっています。

OMさんの噛み合わせ症候群の症状がある程度落ち着いてきたとのことでしたので、2度目の「健康調査票」を記入していただきました。治療開始から約13カ月後のことです。
OMさん


1)顎関節について 術前 術後
顎の関節が痛む  両方 なし
口を大きく開けると痛む -- あり
口があけにくい あり なし
開閉口時に音がする  あり --
2)噛み合わせについて 術前 術後
歯をくいしばる あり --
どこで噛んでよいかわからない あり --
噛んだあと顎がつかれる あり --
片側噛みをしている あり あり
歯列矯正の経験 あり あり
3)気になる全身症状(1) 術前 術後
肩がこる (2) (1)
頭痛がする (2) --
首筋がこる (3) (1)
顔面が痛む (1) --
目が疲れる (3) (2)
目の奥が痛む (3) (1)
耳鳴りがする (1) --
鼻がつまる (1) (1)
気になる全身症状(2) 術前 術後
寝起きがわるい (2) (2)
集中できない (2) --
イライラする (2) --
疲れやすい (3) (1)
以上のように不快症状の量と質は大きく改善しました。
単純に不快症状の量を、不快症状の数と不快症状の強さ(点数)だけで比較してみるとつぎのようになります。

1)顎関節について
3件 → 1件

2)噛み合わせについて
5件 → 2件

3)全身症状(1)
16点 → 6点

4)全身症状(2)
9点 → 3点

総合評価  術前33 → 術後11

 OMさんの不快症状の量は13か月で、単純に比較して、3分の1に軽減したことになります。

このようなことが可能になったのは、ニューロマスキュラー理論とそれにもとづく臨床術式があったからです。この考え方なしにはこのような結果は得なかったと思います。

OMさんは、わずか30歳の若さで3回の矯正治療を経験されています。小学生の時に受けられた治療は別として、成人されてからの治療にはそれぞれ2年ずつ、合計4年を費やしています。その結果はいくらかの改善は得られたものの、満足のいくものではありませんでした。

その原因は、それぞれの矯正歯科医が噛み合わせ症候群(TMD)の成立要因とその解決法についてまったく無知であったからです。まるで羅針盤なしに航海に出たのにもひとしい治療であったことになります。

このような治療の犠牲になった患者さんは今でも増えつづけています。矯正治療そのもので噛み合わせ症候群の患者を量産している一方で、噛み合わせ症候群を治療するという目的で事態を一層悪化させています。

ここで是非強調しておきたいことは、いきなり矯正治療で噛み合わせ症候群の治療はしない方がよいということです。まず先に下顎位を修正する治療(一次治療)を行って症状の寛解を確認してから、咬合の再構成を目的とする二次治療のために矯正治療という手段を用いるというのが正しい順序です。

いきなり矯正治療で噛み合わせ症候群の治療を行ってもよい結果は決して得られません。このことはいくら強調しても足りないくらい強調させていただきたいと思います。

1.現在の矯正治療は、審美的な要求を満足させることをおもな目的として行われてきている。

2.そのために矯正治療終了時に、上下の歯列が咬合した状態で審美的であっても、周辺の筋肉や顎関節と調和しない

咬合で終わることが多い。

3.その結果としてTMDの症状を発症して苦しんでいる患者は増加の一途をたどっている。これは明らかに

医原性の疾患の一つであると考えられる。

4.これを防ぐためには、審美性だけを追及するのではなく、周辺の筋肉や顎関節と調和した下顎位で咬合を

作り上げる診断力と技術力が不可欠である。

5.ニューロマスキュラーコンセプトは、そのために最も信頼出来る診断法と治療法を提供してくれている。

なおOMさんは、2008年に拙著「かみ合わせ症候群の診断と治療」を出版したときに、東京国際フォーラムで開催した出版記念講演会に出席してくださいました。

その際、聴衆の前でご自身の体験談を詳しく話してくださいました。同じ苦しみを他のひとに味わってほしくないという思いからです。
その時のビデオがここで視聴できます。
ここに紹介させていただいた内容がより詳しくご本人の言葉で語られています。



治療費の目安はこちら