原因不明の歯の痛みで苦しんだSNさん

原因不明の歯の痛みで苦しんだSNさん

SNさん48歳女性は、図書館で拙著「かみ合わせ症候群の診断と治療」をよんで、09年12月2日に来院されました。

主訴は下の前歯が痛むということでした。 これまでに何軒かの歯科医院で診てもらったのですが、思うような結果が得られませんでした。きっかけは、06年に右下の内側に倒れている歯を起こすための矯正治療ではなかったかと考えておられるようでした。
症例

遠方からの来院でしたので、早速2次検査から治療を始めさせていただきました。

その前にご本人がこれまでの経過を詳しく書いてきてくださったのでそれを紹介させていただきます。





 ■2006年6月
    総合診断で顎機能検査をうける。
    治療終了まで、1~2年かかると言われた。噛み合わせ治療のために上顎にスプリントを張り付ける。
 ■2006年9月
    右下の奥歯を抜歯する内側に倒れていた右下の小臼歯の矯正を開始する。
 ■2006年12月
    矯正終了と同時に下の前歯が痛みはじめる。睡眠時に食いしばると痛い。
 ■2007年1月
    アクアスプリントを着用する。
 ■2007年2月
    仮歯を全部作り変える。
 ■2008年
    仮歯が何回も外れる。
    仮歯を2回作り変えた 作り変えるときは全顎 を一度に作りかえた。
 ■2009年2月
    新しい仮歯をつくる。噛み合わせの位置はかなり前になる。
    1か所でしかかみあわない。下の前歯の痛みは一時なくなる。睡眠時下顎を右にずらして食いしばる。
 ■2009年7月
    転院。
    仮歯を作り変え 順番に5回にわけて入れ直す。
 ■2009年8月
    3回目くらいから、あちこち痛み、とくに下の前歯がまた痛みだした。
 ■2009年9月
    落ち着くまで最低4カ月はそのままでと言われた。夜間使用する上顎に嵌めるマウスピースをつくる。
 激痛のため使用できなかった。食事をすると下の前歯が激痛。
 ■2009年10月
    自宅から通える「かみあわせ」治療可能な歯科へ転院。
    仮歯にストッパーがついていないことと、噛み合わせ位置が合っていないと指摘された。
    2~3回通院すると激痛は軽減した。これ以上は治療できないので、最初の状態がわかる最初の医院に戻るか、
 さもなければ大学病院を紹介するといわれた。
    噛み合わせが低くなったので下の前歯がずっと痛む。歯の根の部分が痛む。
 ■2009年11月
    最初の歯科に電話して状態を話す。もう一度診てくれるということで再び受診した。
    再び検査をやり直すために検査日を決めた。下の歯が痛いということを話すが、検査結果が出ないと判断できないといわれた。
 大学病院にいっても、抗うつ剤を処方されるだけだと言われた。
 ■2009年11月
    下の歯が痛み眠れないので、近所の口腔外科のある病院の歯科でみてもらう。
    レントゲン検査の結果、下のあごを正しい位置へ戻すために、顎を右に引っ張る。同時に左右の奥歯を高くしてもらう。
 下の歯の根元のズキズキした痛みはなくなる。
 ■2009年12月2日
    当院を受診。


 ■とにかく下の前歯が痛い。どの歯ではなく全体が痛い。
 ■噛んでいるうちに痛みだす。
 ■話をしていて前歯が当っても痛む。
 ■噛むと上下の歯があたっているようで痛む。
 ■そのため夜間、上の前歯の仮歯を外して寝ている。
 ■今のかみ合わせの位置は正しいかを知りたい。


つぎに全身の状態を知るために、その他の症状について初診のときに記入していただいた「健康調査票」を示します。

症例

初診のカウンセリングはこの「健康調査票」を中心におこないます。

1)顎関節の症状

 ■顎関節が痛む 両方特に右
 ■開閉時に音がする。両方


2)噛み合わせについて

 ■歯を食いしばることがある
 ■歯列矯正をしたことがある
 ■顎が曲がっていると思う


SNさん
気になる全身症状

 ■肩がこる    (2)
 ■首筋が凝る   (3)
 ■腰が痛む(右側)  (2)
 ■手足のしびれ  (2)
 ■目の奥が痛む  (1)
 ■寝起きがわるい (1)
 ■集中できない  (2)
 ■疲れやすい   (2)
 ■生理不順がある (1)

()の中の数字は症状の強さを患者さんの感じ方で記入していただいています。
(1)気になる程度 (2)辛い
(3)かなり辛い


 ■下顎の前歯部をのぞき、ほかの全部の歯が仮歯になっていました。。
 ■一見上下の歯はきちんとかみ合っているように見えます。

これだけでは何も判断できないので、早速2次検査をさせていただきました。
2次検査には、CMS(顎運動記録)とEMG(筋電図)の検査があります。
その内、今の噛み合わせの位置が正しいかどうかを評価するためにCMSのデータのうちでもScan4/5のデータを示します。


Scan 4/5 のデータ

このデータからわかること
 ■意外と仮歯の咬合位と下顎安静位のずれは小さい。
 ■左右のずれも小さく、安定した安静位が保たれている。


その他のCMSデータを示します。
Scan 1 とScan13 のデータ
症例

これはあごの単純な開閉運動とあごの限界運動範囲です。
いずれも大きな問題はみられません。

 ■大きく口を開けたときにわずかに左に偏移して開きます。
  37.4mm 開口した時点で、左に2.0mm偏移します。
 ■開口量は十分で、開口制限や運動制限はみられません。
  最大開口量 42.8mm(平均40~55mm)

次に筋肉の検査結果を示します。



EMG(筋電図)のデータ
Scan 9(TENS前) と Scan10(TENS後)の筋の安静度の比較
症例

左右で8つの筋肉の安静度(筋電位)を調べています。振幅が広いほど筋からの放電量が多い(緊張している)ことになります。
症例
 
 ■TENS前後で筋の電位が下がった筋
  左右の咬筋(L&RMM)左の側頭筋後腹(LTP) 左の顎二腹筋(LDA)
 ■TENS前後で筋の電位が上がった筋
  左の側頭筋前腹(LTA) 右の側頭筋後腹(LTP9) 右の顎二腹筋(RDA)
 ■総体的にTENSの効果には一定性がなかった。
 ■TENS前後で電位が正常値より高かった筋
  左の側頭筋前腹(LTA) 右の側頭筋後腹(RTP) 右の顎二腹筋(RDA)
  これらの筋には、根強い筋の緊張と筋肉障害の存在が疑われます。

CMSにより下顎安静位を記録した結果をもとに、上下の模型をマウントしました。その結果をつぎに示します。
症例

 ■下顎が前進して臼歯部にわずかなスペースがあります。
 ■CMSのデータでも顎位のずれはわずかでしたので、このような結果になったと思われます。
 ■しかし実際には完成したオーソシスは、安静位からはずれており、口腔内でリサーフェースして調整しました。
  その結果、かなり厚みのあるものになりました。


09年12月15日 オーソシス装着

12月2日の初診から2週間後の12月15日にオーソシスを装着しました。
CMSで安静位を確認したところ、技工上の誤差がかなりありましたので何度か調整をして装着してもらいました。


10年1月8日(SNさんの感想、以下同じ)
 ■最初の10日間はオーソシスの端が歯肉にあたって痛く、はめられなかったが、自分で削って調整して使っていた。
 ■オーソシスに慣れたら、外すと顎関節が痛む。今ではオーソシスなしでは生活できない。外すと調子が悪くなる。
 ■オーソシスを嵌めていても外していても、どうしても顎が後ろに下がろうとする。
 ■下の前歯の痛みは全くなくなった。オーソシスをしたままで食事をすることがある。
 ■この日はオーソシスのリサーフェースをして調整しました。

10年2月15日
 ■1か月前より確実に良くなっている。しかしまだ完全ではない。
 ■顎関節が両方とも交互に痛くなる時がある。口の開け方によって痛くなる。
 ■オーソシスは前後には安定しているが、左右には動くようだ。
 ■この日は咬頭嵌合位を明確にするために、上顎の仮歯の機能咬頭を光硬化型のCRレジンで築成した。

10年2月26日
 ■前回は調整がうまくいかず、左右にずれた。そのため頭が右に傾いた。(SNさんの感想、以下同じ)

10年3月26日
 ■全体的に良くなった。辛さは以前の3分の1くらいだ。
 ■夜間、食いしばることと、口が開いてしまうことが辛い。
 ■人と会ったり、食事をしたりしたのでしばらく外していたことがあったが、その時下の歯が少し痛くなった。
   左の関節が鳴るのは良くならない。
 ■肩こりはよくなったが、首筋はまだ痛む。リサーフェースしました。調整がよくなかったようです。

10年4月20日
 ■調整後2週間くらいは調子が良かったが、オーソシスをはめて食事をしているせいか、平坦になってしまった。
   そのため夜寝ている時右にずれてしまう。それにつれてからだもねじれるようで不安だ。1週間くらい前から
    右の顎関節が痛むようになった。右の腕を挙げても顎が痛む。
 ■オーソシスを外すと食事ができない。
 ■最近は生理がきちんとくるようになった。
 ■腰の痛みも、整体に通わなくてよくなった。今回は摩耗しない材料で調整しました。オーソシスもDCコアで調整しました。

10年5月14日
 ■夜間、顎がガクンとずれることがあった。
 ■オーソシスをリサーフェースして調整した。

10年5月28日
 ■今回はいままでで一番よかった。身体がとても楽。
 ■あごが正しい位置にあると全身の血液がよく流れるようで、足先まで届くように感じる。夜中ずれることがあるが、
   そのあと前ほど痛むことはなくなった。
 ■くしゃみをすると関節がずれることがあった。

10年6月15日
 ■くしゃみをすると外れることは、前歯を接触させたことでなくなった。夜中に右にずれることも無くなった。
   全体的には改善されているが、細かい症状はまだある。
 ■右の仙骨のあたりに痛みがあったが、それも完全になくなっている。
 ■かみ合わせの位置がわからなくなることが時々ある。
 ■気がつくとあごが後ろにさがっていってしまう。
 ■咬む位置をはっきりさせてほしい。
 ■顎の位置が定まらないと、姿勢も定まらない。

10年7月5日
 ■右下が欠けた。大事な部分が欠けた気がした。
 ■今までのように食いしばらなくなった。
 ■右の股関節が痛んだ。
 ■上顎の機能咬頭をCRで修復しながら下顎の仮歯をリサーフェースして安静位に乗せた。これで咬合する位置が
   はっきりわかるようになった。

10年8月20日
 ■後ろには戻らなくなったが、最初より低くなった。
 ■調整したあと2~3週間は右にずれて調子がわるかった。
 ■そのころ、くしゃみをしたら左の関節がひどく痛んだことがあった。
 ■身体はここ2~3年の間で最も調子がよい。坐骨神経痛も軽減した。骨盤のねじれがとれたようだ。
   からだの右半分の不調が改善されている。症状の90%は良くなった。
 ■今までは骨盤がずれていて、仰向けに寝ることができなかったが、今は普通に寝ることができる。
 ■下の歯の痛みは全くなくなった。


以上でこれまでのところ症状は一段落というところですが、しばらくこのまま安定するのを待って、次の段階に移ろうと考えております。

次の段階ではいきなり、本番の歯を作るのではなく、一旦プロビジョナルという本番とほとんど同じ仮の歯を作ってさらに様子をみます。様子を見るということは、単に噛み合わせのことだけではなく、審美性のことも含めて包括的に考慮するということです。そこで問題がなければいよいよ最終的に本番の歯をつくって終了ということになります。

SNさんはこの段階でしばらく様子をみさせてほしいということを希望されています。

ところで今回のSNさんの主訴は下の前歯の原因不明な歯の痛みでした。
SNさんは当かみ合わせ治療研究所に来られるまでに4軒の歯科医院を廻ってこられました。その途中で下の前歯が痛くなり、その治療を依頼したのですが、どこの歯科医院でも適切な対応はできませんでした。
どこの歯科医院でもその原因を真剣にさぐったはずです。しかし原因を特定することができず、したがって治療も出来ませんでした。そのことをここで責めるつもりはまったくありません。
なぜならこの原因不明の歯痛の原因はいまだに未解明で、だれも知らないからです。

原因が知られていないのですから、治療法もわかりません。現在最も有効と考えられている治療法は、精神科医しか処方することが許されていない抗うつ薬を投与することだけだといわれています。
この原因不明の歯痛は、非定型歯痛、または特発性歯痛とよばれています。
ここですこし詳しくそのことに触れてみたいと思います。



症例

 ■非定型歯痛のこわいところは、原因不明にもかかわらず、患者の窮状をみかねて通常の歯科治療をおこなってしまうことです。
 ■多くの場合、歯の神経を取ったり、歯そのものを抜歯してしまったりします。
 ■しかしそれでも問題は解決されることはなく、あいかわらず同じところが痛むか、ほかの部位に痛みが移ったりします。
症例

これは現在世界中で認められていて、実行されている定型歯痛の治療法に関する考え方です。
しかしニューロマスキュラー理論を掲げて噛み合わせ症候群に立ち向かっている東京かみ合わせ治療研究所では別の考え方をしています。

 ■ニューロマスキュラー理論では、あくまでも筋肉を中心に考えます。
 ■ニューロマスキュラー理論からすれば非定形歯痛は、噛み合わせ症候群のひとつであると考えることができます。
 ■症例数がまだあまり多くはないので現在はそのように公式には主張していません。
症例

 ■SNさんの下の歯の痛みは、2回目の来院でなくなりました。
 ■オーソシスを12月15日に装着して、翌年の1月8日には症状はなくなっていました。
 ■それと同時に顎関節症なども改善の兆しをみせており、オーソシスを手放せなくなりました。
 ■つまり数々の筋肉症状の改善と同時に、非定型歯痛の症状も改善していったようです。
 ■その後も筋肉症状が安定している限りは再発は認められていません。



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