睡眠時無呼吸症候群と倦怠感で悩んだTMさん

52歳男性
初診2006年10月7日
睡眠時無呼吸症候群と倦怠感
咬み合わせの違和感に苦しんだ日々
睡眠時無呼吸症候群と倦怠感で悩んだTMさんその1

睡眠時無呼吸症候群と倦怠感で悩んだTMさんその2

症  状
主訴;噛んだときのあごの位置が納得がいかないこと
(本人の訴えのまま)


   ◆良く眠れない
   ◆重度の睡眠時無呼吸症候群を患って Cpap マスクを着用中
   ◆マスクは最初のうちは効果があったがだんだん効果が無くなってきている
   ◆耳鳴り、めまいがある
   ◆首の周囲が凝る
   ◆肩凝がひどい
   ◆目の奥がだるい
   ◆顎もだるい
   ◆顎関節が一瞬ピッと音がすることがある。顎を前に出して開くと音がしない
   ◆去年くらいから噛み合わせが気になるようになった
   ◆3年ほど前3~4か月休まずに働いていたら鬱になったことがあった

カルテ

初診時口腔内所見
2006年10月6日
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初診時のCMS所見
1
Scan 1 の所見
最大開口(垂直)=41.6mm
最大開口(水平)=17mm
最大開口時のCOからの前後移動量=25.8mm
最大開口時の側方変位=2.6mm
最大開口量=48,9mm
2
Scan 2 の所見
開口相
 最大開口速度=342.5mm/sec
 平均開口速度=192.6342.5mm/sec
閉口相
 最高閉口速度=237342.5mm/sec
 平均閉口速度=177.9342.5mm/sec
閉口時の最終歯牙接触速度=28342.5mm/sec
初診時のCMS所見
3
Scan 3 の所見
垂直安静空隙=3.6mm
閉口時の前後的移動量=ー1.2mm
閉口時の側方移動量=0.8mm左
前後/垂直比=-0.3
4
Scan 4・5 の所見
安静時空隙
 COより3.3mm下方
 COより2.6mm前方
 COより0.7mm右
マイオトラジェクトリーは
 COより2.6mm下方で交叉する
 COより0.3mm前方で交叉する
初診時の下顎運動域の測定
(運動制限の有無)
5
Scan 13 の所見
下顎の最大運動域
最大開口域(垂直)=41.5mm
最大前方運動域=11.8mm
最大後方運動域=25.1mm
最大側方運動域(左)=8.4mm
最大側方運動域(右)=11.8mm
最大開口量=48,5mm
初診時のEMG(筋電計)所見
Scan 9 TENS前の4筋の安静電位(左右)
6


7
         左側頭筋前腹     1.8μV        左側頭筋後腹       2.6μV    
       右側頭筋前腹     2.7μV        右側頭筋後腹       2.7μV 
       左側咬筋        3.6μV        左側顎二腹筋       0.9μV
       右側咬筋        14.8μV       右側顎二腹筋       4.0μ
初診時のEMG(筋電計)所見
Scan 10 TENS60分後の4筋の安静位の安静電位(左右)
8


9
      左側頭筋前腹  ⇒  0.8μV     左側頭筋後腹  ⇒  3.2μV    
      右側頭筋前腹  ⇒  1.4μV     右側頭筋後腹  ⇒  2.4μV 
      左側咬筋    ⇒  1.5μV     左側顎二腹筋  ⇒  1.3μV
      右側咬筋    ⇒  9.2μV     右側顎二腹筋  ⇒  12.1μV 
初診時のEMG(筋電計)所見
Scan 9・10 の 比較 (TENS前後の4筋の安静電位の比較)
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TENS前                              TENS後
右の咬筋(RMM)と右の顎二腹筋(RDA)の異常な緊張がみられる
初診時のEMG(筋電計)所見
Scan 9・10 (TENS前後)の比較
11


初診時のEMG(筋電計)所見
Scan 11(咬み締めテスト)
12
Scan 11 の所見
咬み締めテストの結果
天然誌とコットンルールを噛みしめた時の筋の動員状況には大きな差は認められない。
初診時のEMG(筋電計)所見
Scan 12(最初に接触する部位)
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下顎安静位から閉口して最初に接触する部位は左の犬歯,小臼歯部である
咬合採得  Bite Registration
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咬合採得の手順
① マオモニターを60分
② 安定した姿勢で姿勢を正し
③ Scan4の画面で安静位が安定しているのを確かめる
② Aキーでアライメントを確認
③ 下顎を前進させてそこで10秒間保持する
④ その後、顎、舌、口唇の力を完全に抜いてもらって、カーソルの動きを観察する
⑤ カーソルが安定したらそこでKキーを押す
③~5を7回 くりかえす
咬合採得  Bite Registration
15
咬合採得の手順 Bite Registration
Escape key を押して Scan5の画面に切り替える。その画面上で、
④TRの延長線上にターゲットをマークする
⑤そこへ下顎を誘導する
治療経過
2006年
 10月7日 : 初診
 10月28日: CMS,EMGによる検査、(咬合採得)
 11月18日: オーソシスセット

2007年
 1月6日 : オーソシス調整(リサーフェース)
 3月3日 : オーソシス調整
 5月12日: 固定性オーソシスの準備 6月 2日: 固定性オーソシスを接着
“噛んだときのあごの位置が納得がいかない”
2006年10月28日
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習慣性咬合位
Centric Occlusion
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筋肉位(安静位)
Muscle Position
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CO(習慣性咬頭嵌合位)と筋肉位(筋肉の安静位)との不一致
下顎の安静位とは(筋肉が納得する下顎位)
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下顎の安静位では咬み合わない
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可撤式オーソシス装着後の患者さんの反応

2007年1月6日  (オーソーシスを装着後2か月)

◆新しい顎の位置に慣れるように努力をしたが、1か月後くらいに顔の筋肉が疲れるような感じがした。一時使用を中止したら元に戻った・
◆最近は夜装着していて朝外すと頼りない感じがするが、肩こりや首筋の凝りは気にならなくなった。
◆目の奥のだるい感じは変わらない。
◆夜はよく寝れている。
◆オーソシスをはめている時の方が、安定感がある。
◆外したときに前歯だけが当たるのが気になる。
◆全体的にリサーフェースをした。
◆はるかに安定した咬合接触が得られたとのこと。

2007年3月6日

◆オーソーシスを着けている時の方が楽でよく眠れる。
◆目のだるさは気にならなくなった。
◆CNSで検査したところでは顎位はもう少し前方がよさそうだ。
可撤式オーソシス装着後の患者さんの反応

2007年5月12日   (オーソシスを6か月使用した後の経過)

◆最近までずうっと問題なくきていたが、ここ2~3日頭痛と気分の悪さが続いた。
◆オーソシスをしていなくても自然に良いあごの位置にいくようになっている。
◆然しその位置では、前歯が先に当たる。
◆前歯が当たると顔面の一部のところが何とも言えない嫌な感じがする。
◆鼻から目、おでこ(前頭部)の辺りまで嫌な感じがする。
◆もう元の位置では噛めない。ちゃんと噛めない。
◆早く今の顎の位置で噛めるようになりたい。
◆旅行など、無呼吸のマスク(CPAP)を使わなかったが症状は出なかった。
◆以前は7時間で66回無呼吸があったのでよく眠れなかった。朝起きた時かなり疲れた状態で起きることが続いていた。
◆現在、睡眠時無呼吸症候群はかなり改善しているのではないかと思っている。
◆要望に答えるために固定性のオーソーシスをつくることにした。
固定性オーソシス
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固定性オーソシス

2007年6月2日

◆固定制オーソーシスをスパーボンドで固定した。


2007年7月7日

◆固定制オーソーシスに慣れるまでに苦労した。食事がおいしくない。まともに噛んだ感じがなかった。
◆感覚が狂って舌を噛んだ。どんな風に噛んでいいか分からなかった。
◆前歯で噛み切ったりは出来る。不快感はない。
◆身体は全体的に調子いい。
◆無呼吸のテストを2回受けたが相変わらず重度であったが、60回が30回になった。
◆マスクなしで寝ることを試してみた。軽くなっていることが体感できた。
◆TENSで 咬合調整をした。大分噛みやすくなったとのこと。
固定性オーソシス

2007年8月25日

◆症状はほとんど無くなった。気にならなくなっている。
◆SASの方はとくに変わりはない。対症療法(シーパップ)をしていれば問題ない。
◆今後は2次治療について検討する。

2007年10月27日

◆CMSで顎位をチェックした。左に0.5mmずれている。次回修正する。
◆COの自由度が増しているとのこと(咬合面の摩耗?)

2008年1月26日

◆2次治療の治療計画について話し合った。
◆32,42、を抜歯して交叉咬合を解消し、下顎前歯を後退させる。前歯部の干渉を解消する。前歯部の被蓋の正常化をめざす。
◆前歯部の矯正治療を1~1,5年の予定で行うことを納得の上で決定した。
前歯部の被害の正常化をめざす矯正治療
2009年3月28日  (下顎が全体的に前進しているために上顎の臼歯部を拡大する必要がある
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上顎に拡大床を装着した
前歯部の被害の正常化をめざす矯正治療が終了

2009年3月28日
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下顎の臼歯部にはまだ固定性のオーソシスがついている
固定性オーソシスを外して臼歯部を
咬み合わさせる矯正治療を開始

2009年5月9日


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固定性オーソシスを外して臼歯部を
咬み合わさせる矯正治療

2010年4月2日
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固定性オーソシスを外して臼歯部を
咬み合わさせる矯正治療

210年7月17日
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固定性オーソシスを外して臼歯部を
咬み合わさせる矯正治療

2010年12月25日   臼歯部が噛んできていることが自覚できるようになってきた。
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CMSによる咬合状態をチェック
下顎位と開閉運動は適正か?変位はないか?


2011年5月28日 
 COはTR(トラジェクトリー)の延長線上にある。開閉運動と一致している。左右の変位もない。
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咬合状態はニューロマスキュラー的に極めて良好な状態にあると判断した
CMSによる咬合のチェック
Scan2(開閉運動速度)の変化



2011年5月28日                   2006年10月6日(初診時)
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顎の開閉運動は円滑で正常化された
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初診時の顎の開閉運動 (運動遅滞がみられる)
顎関節の障害が改善されて開閉運動が円滑に行われるようになった
固定性オーソシスを外して臼歯部を
咬み合わさせる矯正治療


11年9月10日
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固定性オーソシスを外して臼歯部を
咬み合わさせる矯正治療


2012年10月13日 (奥歯は噛めるようになってきた。CPAPはもう使っていないがSASの症状はない
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固定性オーソシスを外して臼歯部を
咬み合わさせる矯正治療


2015年2月28日  (上下ゴムメタルワイヤー+ティップアップベントと顎間ゴムを使用)
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臼歯部が挙上してきて患者さんの歯自身で
咬合を支えることが出来るようになった


2016年3月28日  (矯正装置を除去した)              (11年9月10日 開始時から4年半後)
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臼歯部を咬み合わさせる矯正治療を終了後に
右上の補綴物作り変えた

2016年3月28日  (13,14,15,16、の補綴をやりかえた)
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全ての治療終了後
15カ月経過時の口腔内の状態

2017年5月17日
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下顎前歯部の欠損は患者さんが気にならないといわれるので補綴はしない
全ての治療を終了後の考察

① 約10年以上に及ぶ長期間の治療であったが、驚異的な患者さんのご協力のお陰で無事に治療を終了することが出来たこと
    に心から感謝している。
② 途中患者さんの勤務の都合で半年間のブランクはあったが、治療期間の大部分は矯正治療に費やされた。もっとスピード
    アップすることが今後の課題である。
③ 初診時に患者さんが訴えられた「噛んだときのあごの位置に納得がいかない」という主訴はTMDという症状の本質を表して
    いる。またその原因についても多くの示唆を示している。
④ この感覚は多くのかみ合わせ異常を訴える患者さんに共通の感覚であり、悩みの出発点でもある。
⑤ この主訴を聞いた途端に、この患者さんのお役に立てることができると直感的に感じることができた。
⑥ この感覚をニューロマスキュラーの理論で解釈すると、「顎の筋肉が満足する位置で歯が噛み合わない」 ということを
    訴えているということになる。
⑦ その証拠に、歯が咬み合う顎の位置を筋肉が納得する位置で安定させてあげると、半年以内にほとんどすべての不定愁訴は
    消失するか改善された。
⑧ それらの不定愁訴の中には睡眠時無呼吸症候群(SAS)も含まれていた。
⑨ 正直なところそれまで睡眠時無呼吸症候群の治療経験はなく、改善できるかどうかは不明であった。
⑩ 基本的には睡眠時無呼吸症候群の原因のひとつは下顎が後退することで舌根が上気道を塞ぐためなので、正しい顎位で下顎が
    前進すると気道が通じるようになり、改善されるのは不思議ではない。



睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療経過と考察(1)

2006年10月7日 初診  
  よく眠れない。睡眠時無呼吸症候群でマスクを着用している。鼻マスクは最初は効果があったが、
    だんだん効果が無くなってきている。日中だるい。
11月18日
  オーソシス装着
2007年 1月 6日 
  装着していると安定感を感がある。夜はよく眠れている。リサーフェース(調整)した。
3月 3日
  オーソシスを付けている方が楽で良く眠れる。
5月12日
  旅行などで無呼吸のマスクを使わないことがあったが、症状は出なかった。
  耳鼻科で入院して調べた、7時間で66回無呼吸。朝起きた時にかなり疲れた状態で起きる。
6月 2日
  固定性のオーソシスの変更した。
7月 7日
  無呼吸症の簡易テストを受けた。60回が30回代になった。マスクなしで寝ることを試みた。
  軽くなっていることが体感できた。



睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療経過と考察(2)

2007年10月27日
    CMS (K7)で顎位をチェックした。0.5mm右にずれていた。次回修正する。
    COの自由度が増しているとのこと。摩耗があるのかもしれない。
2008年 1月26日
  治療計画について話し合った。矯正治療をすることになった。
4月 5日
  上顎に拡大床を装着、矯正治療を開始した。
  以降、矯正治療を続行する。
2010年 2月 6日
  CMS(K7)で顎位をチェック。顎位はほぼTR上にある。SASの方は落ち着いているようだ。
2010年 9月25日
  矯正治療の結果臼歯部が噛んできたのを自覚されている。
2011年 1月29日
  睡眠時無呼吸症候群の方は改善に向かっているようだ。マスクの使用は少なく(2日に1度)でも平気になったとのこと。
   (固定性のオーソーシスを除去して矯正で臼歯部を伸ばす治療をしているために、顎位が一時的に不安定で低位咬合に
    なるのでしばらくSASの症状は改善は足踏み状態になる)。
2012年11月24日
  奥歯は噛めるようになってきた。マスクは使用していないが症状は出ていない。しかしデータはあまり良くないのだそうだ。



睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療経過と考察(3)

根本療法としては狭くなった咽頭腔を広げることだが、歯科領域で行うとしたら後退した下顎を正常な位置に誘導して臼歯部のかみ合わせ(咬合高径)を高くしてやることが効果的である考える。

事実この患者さんの場合にはオーソシスで下顎位を適正化して臼歯部の咬合高径を高くしたことで
無呼吸症候群の症状は一時的に改善した。 AHI,60→30、(2007年7月7日)

それ以降、マスク(CPAP)の使用頻度は少なくなっていたようだが、完全に使用しないで済むようにならなかったのは、自分自身の歯で適正な下顎位と咬合高径を維持できるようにする、二次治療を行うために固定性のオーソーシスを外した時期が長かったためである。(オーソシスを外すと顎位が戻って咬合高径も維持できなくなる)

完全にマスク(CPAP)を使わなくても済むようになったのは、矯正治療が終了する間際に患者さん自身の歯で正しい顎位を維持することができるようになってからである。

一時的に睡眠時無呼吸症候群の症状をオーソシスを使った一時治療で改善することはさほど難しくはない。しかしその状態(顎位)をオーソシスを使わずに患者さん自身の歯で維持できるようにする二次治療はそれほど容易ではない。



睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療経過と考察(4)

2013年 7月13日
  マスクを使う頻度は少なくなったとのこと。その他にも全体的に体調がよくなり会社を休むこともなくなった。
9月21日
  仕事の関係で6カ月間地方で勤務することになったとのこと。この間、装置は外さずに3カ月に1度程調整に来てもらうことになった。

閉塞性の睡眠時無呼吸症候群は原因が中枢性のものでない限り、何らかの理由で咽頭腔が狭くなり上気道が塞がれるために起こる呼吸困難が原因でおこる無呼吸症である。

睡眠中の10秒以上の無呼吸の回数が、5回未満歯は正常、5~15回未満は軽症、15~30回未満は中等症、30回以上は重症とされているので、この患者さんは最悪期には66回を記録しているので、かなり重症であった。

放置すれば、心臓発作、心不全、不整脈、交通事故などのリスクがあったが、それでなくても睡眠障害のために日中の倦怠感に悩まれていた。

治療は内科、耳鼻科などでおこなわれるが、治療の主体は、睡眠中の呼吸を援助するCPAP(持続陽圧呼吸法)であるが根本療法ではない。