診断と治療の根拠

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診断と治療の根拠は、”神経筋機構理論”(Neuromuscular Consept)においています。これは1970年代のはじめに、アメリカのシアトルの開業医であったバーナード・ジャンケルソンによって提唱された考え方です。それまで顎関節を中心にして考えられてきた咬合の考え方に対して、もっと筋肉の果たす役割を重視するべきであるという主張にもとづいています。

ジャンケルソンは歯科用のTENS(経皮的低周波電気刺激装置)を開発して咀嚼筋の緊張を和らげる方法を考案しました。

これにより、咀嚼筋が緊張していないときの下顎の位置を捉えることが可能になり、歯科の臨床に画期的なページをひらきました。筋肉を重視した歯科臨床の1ページが開かれたのです。歯牙をすべて失った患者さん、または歯はあってもその歯の噛み合せのためにあごの位置が狂っているのではないかと疑がわれる場合には、上下のあごの正しい位置関係をあらたに探さなければなりません。歯を失った患者さんのために義歯を作るときには、歯が元々存在した時の上下のあごの対向関係がわからないと義歯の人工歯を並べることができません。この関係を推定して記録する操作を咬合採得と呼んでいますが、そのためには下の顎(あご)の位置をどこに位置づければよいかがわからないと困るのです。もと歯があった時のあごの位置を探す(推定する)ための方法としては、これまでにさまざまな方法が考案されてきています。そのなかで最もひろく支持されてきたのは、顎関節の位置を基準して下顎の位置を推測する方法です。(現在もほとんどの歯科医はそう考えています)

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ジャンケルソンは顎を動かしている筋肉がもっとも楽なときの位置を基準にして決めたほうがよいのではないかと考えました。緊張が無い筋肉(咀嚼筋)が支える顎の位置(安静位)を基準にして、そこからわずかに挙上した位置で歯を並べるとよく噛める義歯ができるのではないかと考えたのです。そしてそのとおりにお実行したところ、良く噛める義歯をつくることに成功しました。そしてこの考え方を”神経筋機構理論”と名づけました。

この発見は義歯をつくるためだけではなく、歯の噛み合わせのためにあごが安静位ではない不正な位置に誘導されている患者さんのためにも、正しい顎の位置を求める方法として応用されています。ジャンケルソンは上下の歯がかみ合うときに顎の周囲の筋肉にとって安静でない位置に顎が無理に誘導されることで、筋肉の緊張が誘発されてTMDのような症状が出現するのではないかと考えました。つまり噛むたびにあごの周囲の筋肉と神経が安静をみだされて過剰な緊張状態が誘発され、そのためにさまざまな不快症状がおこるのではないかと考えたのです。人間は一日に約2000回、食事やその他の理由で歯を噛み締めるといわれています。そのときの顎の位置が、顎関節や周囲の筋肉の安静をみだすとしたら何らかの異常が発生すると考えても不思議ではありません。つまり筋肉や顎関節がいやいやながら働かされている状態がつづいて、とうとうその不満が爆発した状態がTMDまたは「噛み合せ症候群」であるということになります。

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治療と診断のためには基準となる顎の安静位を探さなければなりません。そのためにはあごの周辺の筋肉を安静に導かなければなりません。その方法として TENS(経皮的低周波電気刺激装置)が応用されています。TENSを45分から60分使用して筋肉のリラクセーションをはかるのです。そしてそのときの顎の位置を記録して、歯がかみ合うときのあごの位置と比較します。この二つの顎のいちのズレが大きければ大きいほど、顎関節と筋肉が払っている犠牲が大きいといいうことになります。治療はそのギャップを埋めて噛むために顎が不正な位置に誘導されないようにして顎の安静を確保することからはじめます。安静を保つことで周辺の筋肉の緊張や顎関節の圧迫がとれて治癒に向かいます。

診断と治療のためには、二つの顎の位置を記録して表示する装置が必要になります。ジャンケルソンは、まだコンピュータがこんなに普及していない1970年代に私費を投じてその装置を開発しました。マンディブラー・キネジオグラフ(Mandibular Kinegiograph)とよばれる装置です。この装置では10分の1ミリの精度で下顎の位置を三次元的に計測して表示することができます。この装置のおかげで顎の位置のズレを画面上で正確に計測して記録することができるようになりました。肉眼では見ることのできないわずかな顎の位置のズレを診断して対策を講じるためには欠かせない装置です。治療中にも常に顎が正しい位置に誘導されているかどうかをこの装置で確認しながら治療を進めていきます。この装置は最近ではCMS(Computerized Mandibular Scan)とよばれています。

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検査機器としてはこの他にも、筋肉の安精度や機能を調べるために歯科用の筋計図を使います。主要な筋肉の上に電極を貼って筋電位を測定し、筋肉の状態を把握します。筋肉が安静状態にあるかどうかを知る必要があるからです。この装置はEMG(ElectroMyograph) とよばれています。

これらの機器は正しい診断と的確な治療をすすめていく上で欠かせないものになってきています。もはや医師の肉眼と勘だけでは十分な治療がおこなえない段階にきているのです。

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