矯正治療後の後遺症はなぜ起こるのかその対策は?

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せっかく歯並びが奇麗になったのに、噛み合わせの不調という後遺症に悩む患者さんが増え続けています。

矯正治療後に、以前のようにものが十分に咀嚼できない、四六時中噛み合わせの違和感になやまされる、仕事や勉強に身が入らない、顎関節の異常、首・肩のこり、頭痛などを経験するようになります。

これらの不定愁訴に悩まされている一人の患者さんの治療経過にそってその症状と原因、解決法について解説させていただきます。

1.患者さんとの出会い

矯正治療の不具合で悩んでおられる患者さんとの最初の出会いは次のような一通のメールからでした。

ご相談内容:

矯正治療が原因という方の体験談を読みましてこちらに連絡させていただいています。
私は歯並びは治療のおかげでよくなったと思うのですが、噛み合わせが上手くいっているとは思いません。
奥歯を噛みしめる、ぐっと力をいれる感覚がありません。前歯がいつも当たっている感覚で噛む時も昔から前歯ばかり使っていたせいか、奥歯を使っていない気がします。
毎日口の中に違和感がありイライラしています。またしゃべりにくいです。
歯医者にいっても歯並びは大丈夫だと言われるのであきらめていたのですが、そんな時に偶然このサイトを見つけたのですぐに連絡をいたしました。カウンセリングをどうかよろしくお願い申し上げます。

2.患者さんのお悩み

早速来院していただき、カウンセリングをさせていただきました。

 この方は、2年ほど前に八重歯が気になり矯正治療を始めましたが、

 治療後に、奥歯が低くてかみ合わなくなり、しっかり噛める感覚がない。

   どこで噛んでよいか分からない

   前歯が常に当たっており、奥歯でかみ締めることができない。

   奥歯で無理に咬むと首筋が痛くなり、ひどいときは頭痛もする。

   夜もよく眠れないことが多く、そのために寝起きが悪い。

 疲れやすく、日中はやる気がおこらない。

 毎日くちの中に違和感がありイライラする。

 今は集中して本を読むこともできない。

 顔の筋肉が強張り、緊張していて痛くなるときもある。

 就職活動も十分に身が入らない。

このような症状を治療をしてもらった矯正医に訴えても、納得のいく説明が得られることはまずありませんでした。

その理由は治療をした矯正医自身も、患者さんがなぜこのように多くの不定愁訴を訴えてくるのか理解できないからです。

患者さんの求め通りに歯並びを綺麗に整えたのに、患者さんがこのように厄介な症状をたくさん訴えてくる理由が理解できません。

矯正治療とは関係がないと思いたいところですが、矯正治療をする前には無かった症状ばかりですからそういうわけにもいきません。 

明らかに矯正治療の結果もたらされた後遺症であり、何らかの因果関係があるはずです。

矯正治療をした後で、いわば矯正治療の後遺症としてこのような心身の不調を訴えてくる患者さんは増える傾向にあり、この方ばかりではありません。

当咬み合わせ治療研究所を訪れる患者さんの3人に一人は、過去に矯正治療を受けた経験があり、その後遺症に悩んでおられます。

そのような患者さんの多くは原因不明ということで適切な説明も処置も受けることができないために、有効な情報を求めて当研究所に来所されます。

もし一生治らずに、このような苦しみから逃れることができなかったらどうしようかという不安から絶望的になっておられる患者さんは少なくありません。

そのために仕事や勉学に身が入らず、人生のキャリアが次第に狂っていってしまう若者も少なくないのです。引きこもりやフリーターなどが出現する原因の一つにもなっています。

このような患者さんは当然、複数の医療機関を受診されます。しかしさまざまな検査の結果、異常はないと診断されることが多く、そこではじめて自分が感じている悩みや苦しみは誰からも理解してもらえないものであって、孤立無援であるということを知ります。その結果、孤立感と不安感を抱くようになります。

そうなると次第に周囲からも理解されなくなり、さらに孤立していきます。孤独感と不安感がつのると、その結果、精神に異常をきたすようになることもあります。

結果的に精神科や診療内科を受診することになりますが、多くの場合そこで薬物療法が施されます。薬物が処方されますが、これは基本的に対症療法でしかなく、多少改善することがあっても完治することはまず期待できません。

それでは完治させるためにはどうすればよいのでしょうか。

そのためには矯正治療の結果、何がどのように変化したためにこのような異常がもたらされたのかを正確に診断して把握しなければなりません。

診断の結果、その原因が分かれば原因を取り除くための治療をおこなうことになります。

ただしこの診断と治療のためには、従来の歯科治療で用いられてきた手法だけでは十分ではありません。それとは別の考え方と取り組み方が必要になります。

3.患者さんの悩みを解決するためにには従来とは違う​​考え方と取り組みかた

その考え方とは、当、咬み合わせ治療研究所が採用しているニューロマスキュラー理論というものですが、採用している医療機関は極めて限られています。

この理論がなければ、このような患者さんの悩みを理解して解決することはできません。

このようなことがなぜ起こるのかというという原因も理解できないので対策の立てようもありません。

しかし残念なことにこの理論を採用している医療機関は皆無に近いので同じような事故がくりかえし頻発するようになります。

この理論を応用すれば、矯正治療によって狂わされた咬み合わせの異常を的確に診断して、確実に対策をたてることができるようになります。

つまり不定愁訴の原因を診断して、原因を取り除くために必要な治療を行うことができるようになるのです。

またこのようなことが起こらないように注意して治療をすることも出来るようになります。

当かみ合わせ治療研究所ではこの理論のおかげで、咬み合わせの異常に関連した不定愁訴で苦しんでおられる患者さまの苦しみを解消することが可能になっています。

4.矯正治療後にこの患者さんには何が起きているか

この患者さんは治療後に次のような噛み合わせの違和感を感じたと訴えておられます。

 治療後に、奥歯が低くてかみ合わなくなり、しっかり咬める感覚がない。

   どこで噛んでよいか分からない

   前歯が常に当たっており、奥歯でかみ締めることができない。

   奥歯で無理に咬むと首筋が痛くなり、ひどいときは頭痛もする。

これらの訴えからも分かるように奥歯の噛み合わせが低いままで治療が終わったようです。

しかしそのことを自覚できるのは患者さんだけで、おそらく治療をした歯科医には理解してもらえなえなかったと思います。

なぜ患者さんが自覚できることが歯科医には理解できないのでしょう。

この疑問は前述のニューロマスキュラー理論で解くことができます。

ニューロマスキュラー理論は神経と筋肉の働きを重視するという考え方ですが、それによると上下の歯が同時に緊密に噛み合う時の下あごの位置は下あごを動かしている筋肉が緊張しないで安静を保てる楽な位置でなけらばならないということです。

この患者さんの場合には患者さんにとって楽で自然な下あごの位置で自然に口を閉じた時に全部の歯が噛み合わないで前歯だけが当たります。

同時に奥歯も噛み合わせようとすると下あごを後ろのずらして奥歯が噛み合う位置までずらして噛まなければならないので、筋肉にはそれだけ無理が加わり首筋が痛くなったり酷い時には頭痛もするようになります。

これは噛むための筋肉が安静を保てる下あごの位置で全ての歯が噛めるように上下の歯が並んでいないためです。

下あごを引っ込めなければ上下の歯が噛めないような噛み合わせの状態でものを咬む度に噛む筋肉に負担をかけるようになりそれは不定愁訴の原因になります。

自然に下あごを閉じたときに全部の歯が同時に噛み合うような噛み合わせが理想です。

そのためには下あごの自然な位置(下顎安静位)を知らなければなりません。

下顎安静位が分かれば噛み合わせが正しい下あごの位置で行われているかどうかが分かります。

そうすれば不定愁訴がなぜ起きたのかを知ることが出来ます。

不定愁訴が起こらなくするための治療をおこなうことができるようにもなります。

このように下あごが楽で自然な位置である下顎安静位は噛み合わせ治療を行う上で診断と治療の基準になります。

5.矯正治療後に起こった不快事項の原因を調べる

それでは矯正治療後の不定愁訴で悩んでいたこの患者さんの場合に後遺症として不定愁訴がなぜおこるのかを調べることにしました。

矯正治療の結果作られた噛み合わせの位置が下顎安静位の範囲に入っているかどうかを測定してみなければなりません。

下顎安静位を正確に測定するためにはそのために造られた特別な装置と設備が必要です。

診断と治療のために必要な設備は次の3つの装置です。

 1.下顎の位置の計測と運動を調べる装置 CMS ※
 2.下顎の周辺の筋肉の緊張の度合いと筋肉の健康状態を調べる筋電計EMG ※
 3.筋肉の緊張を和らげて下顎を安静位に導く装置 TENS ※

   ※ CMS(Computer aided Mandibular Scan)という装置です。 
    この装置は下顎の先端にセンサーをつけて下顎の運動を測定する装置(K7)と
   ※ EMG 筋肉の緊張や機能を測定する筋電計から構成されています。

   ※ TENS は筋肉の緊張を緩和するために用いる低周波発信装置。
    経皮的末梢神経電気刺激(けいひてきまっしょうしんけいでんきしげき、
    TENS(transcutaneous electrical nerve stimulation)は、痛みの局所、周辺、
    あるいは支配脊髄神経起始部などに表面電極を置き、低周波を通電する電気療法の一種。
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上の図は矯正治療によって作られた今の噛む位置と下顎安静位の位置関係を示しています。

顎の力を抜いて楽にした時の下あごの位置は矯正治療でつくられた下あごの位置よりも3.6ミリ下の方(わずかに開口)にあり、水平的には3.5ミリ前方になります。

このことから現在噛むように作られている位置は下顎安静位より後方であることが分かりましたので、顎が楽なところで噛むようにするためには下あごをを少し前にずらして噛まなければなりません。

そこで楽なところで噛むことが出来るようにするために赤い数字の3のところで噛むことが出来るように下あごの位置を誘導することにしました。

そのためには取り外し式のマウスピースの一種であるオーソシスという装置をつくって使ってもらうことにしました。

下の写真が患者さんに使っていただいたそのオーソシスを示しています。
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6.下後を安静位に誘導するオーソシスの効果

オーソシス装着後の患者さんの感想です

あれから少し着けていたのですが、違和感があり最初は着けていられなかった。

最近説明書を読んでいたら、歯を噛み締めないようにと記載されていたのを思い出し、オーソシスを着けながら歯を噛み締めないように努力したら嘘のように続けられるようになった。

今は何日も続いている。着けていると気持ちが落ち着くようになった。気が付くと気持ちが前向きになっている。逆に着けていないと思考が鈍くなる感じ。授業が受けられない。

外していると世界が不快に感じる。努力してもつまらない。診療内科の薬を飲んでも変化はないがオーソシスを着けた方が気分が軽くなる。

矯正治療の途中からそのような不快感はあったが気に留めていなかった。

矯正治療が全て終わってしばらくしてから筋肉がリラックスできないことに気が付いた。それから歯がおかしいと確信して沢山の病院で診てもらった。息が苦しいとき耳鼻科にもいったが診療内科を紹介された。

就職の面接にもオーソシスを着けていったがパニックにならなかった。鎮静剤として働いているようだ。家族と話していても感情的にならないですむ。

オーソシスを着けずに噛み合わせた時に前の状態に戻るのがすごく気持ち悪い。

オーソシスを着けていると顔の筋肉に変な力がはいらないから授業に集中できる。勉強できるのがすごくうれしい。
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44か月後に患者さんは笑顔をとりもどしてくださいました。

まとめ

患者さんのお悩みにはほぼ完全に対応できたと思いますが、それはニューロマスキュラー理論とそれに関連した設備と治療技法のおかげです。

従来の治療技法では診断も治療もおこなうことはできなかったはずです。

ニューロマスキュラー理論は下あごが楽な位置(下顎安静位)中心に診断と治療をします。

噛み合わせにかかわる治療は矯正治療だけでなく全ての治療で下顎安静を基準に治療をしなければなりません。

そうすればこの患者さんのような無用な不定愁訴で苦しむ必要はなかったのです。

それには下顎安静位を求めて治療に応用する知識と技術が必要です。

それは決して難しい技術ではありません。ここで概要を説明させていただいた通りです。

理論を勉強してある程度の設備をととのえればだれでも歯科医なら実行できる技術です。

この患者さんのように矯正治療後の後遺症で悩んでおられる方は後を絶たないのにもかかわらず、このような治療に取り込む臨床家は殆ど増えていません。

経済的にもリスクの多いこのような分野にはわざわざリスクを承知のうえで理論を勉強したうえで設備投資してまで参入しようとする臨床家はなかなか現れません。

全国の多くの悩み苦しんでいる患者さんのためにまことに残念なことだと思います。